ぜんそく治療のゴールというものはどのようなものになるのでしょうか?

ANA国内線ラウンジ誌「INOVATIVE VOICE」のインタビューでの6番目の質問です。

短期的なゴールは、咳、喘鳴、胸苦しさなどのぜんそく症状がよくなることです。しかし、ぜんそくは良くなったと思っても、長い期間の間に繰り返し症状がでることが特徴で、完治は難しい疾患です。ですから、治療を続けながら日々を安定に過ごすことが治療のゴールとなると思います。そのためには、ご自身のぜんそくの特徴を理解し、セルフマネージメントのスキルを会得し、ご自身でぜんそくをコントロールできるようになることが重要です。私は、そのためのお手伝い、あるいは、ガイドができればと思いながら毎日の診療にあたっています。ご自身のぜんそくの特徴を理解されることが重要な理由は、一口にぜんそくといっても、数年に1回しか症状が出ない方から、毎日のように症状がでる方、あるいは、たまにしか症状がでないけれど一気に悪くなる方など極めて多彩で、それぞれ対応が異なるからです。また、喘息の薬は、吸入薬が主体となりますので、正しい吸入薬の使い方や、使うタイミング、使う量などの知識も必要になります。最もよく使われている薬剤はステロイドの吸入薬です。なかには、ステロイドの吸入薬を長期間毎日使うことに不安を感じ治療を中断してしまう患者さんもおられます。しかし、現在の喘息治療で使用されている吸入ステロイド薬は、吸入という形で肺に薬剤が直接届き、少量ですむため、安全に長期間継続して使用することが可能になっています。安心して使えるという正しい知識を持っていただき、特に慢性化している患者さんに関しては、継続治療の重要性を理解していただければと思います。また、毎日の吸入薬を使っていても、一時的に症状が悪化することがあり、ぜんそくの増悪と呼びます。風邪、過労、ストレスなどが引き金になることが多く、季節の変わり目に起きやすい傾向があります。増悪した場合の対応、病院に行くタイミングなどの知識も必要になります。ぜんそくの患者さんには、医師と患者の良好なパートナーシップを通して、セルフマネージメントのスキルを会得し、治療を継続しながら、ぜんそくによる日常生活の支障のない日々を過ごしていただきたいと思います。

他の質問へのリンク
(1)ぜんそくの症状とは、どのようなものなのでしょうか。
(2)発症するのは子供が多いイメージですが、大人でも発症するのでしょうか。
(3)ぜんそくは現代人に増えている疾患と言われますが、その要因は何でしょうか。
(4)症状を「コントロール」するとは具体的にどのようなことなのでしょうか。
(5)ぜんそくの検査、診断はどのように行われるのでしょうか。また、どのような症状があった場合、病院に行くのが良いのでしょうか。
(6)ぜんそくの治療のゴールと言うのはどのようなものになるのでしょうか。

2018年7月31日
医療法人上川路クリニック 院長 上川路信博
呼吸器内科・アレルギー科・内科
福岡市城南区茶山1-1-12

ぜんそくの検査、診断はどのように行われるのでしょうか。また、どのような症状があった場合、病院に行くのが良いのでしょうか。

ANA国内線ラウンジ誌「INOVATIVE VOICE」のインタビューでの5番目の質問です。

ぜんそくは気管支が狭くなることで呼吸がしにくくなる病気です。ですから気管支が狭くなっていることみる検査が重要になります。代表的な検査はスパイロメトリーです。この検査では、最大限息を吸い込み、次に思い切り強く吹き出します。気管支が狭くなっていると、息を強く吹きだす途中で詰まってしまい、気流速度が急激に落ちます。この流速の変化から、気管支が狭くなっているかをみることができます。
しかし、ぜんそくは発作性の病気ですので、発作時以外はスパイロメトリーの結果が正常であることも少なくありません。そこで、ぜんそくの診断は症状ベースに行うことが基本です。すなわち問診が重要です。喘息に特徴的な症状があるかに加えて、小児喘息の既往がないか、鼻炎などの他のアレルギー疾患がないか、血のつながった家族に喘息の方がいないかなど丁寧に聞き、これらがあればぜんそくの可能性が高くなります。また、ぜんそくは慢性疾患で咳やゼーゼーヒューヒューいうなどの症状が繰り返し起きます。ですから、これまでにも、季節の変わり目や風邪をひいた後などに、これらの症状があれば喘息の可能性が高くなります。診断でもう一つ大事なことは胸部レントゲンで異常がないことを確認することです。肺炎や心不全などでも喘息と似た症状の場合がありますが、胸部レントゲンで異常がみられることが多く区別できます。さらに、気管支を広げる喘息の薬が有効であれば喘息と診断できます。
ぜんそくと診断がついたら、次に重症度を評価します。これには、症状が落ち着いたときのスパイロメトリー検査が有用です。ぜんそくが慢性化すると症状がなくてもスパイロメトリーで異常がみられます。常に気管支が狭くなっていることを意味します。そのような場合は、大きな発作をおこす可能性や将来的に息切れが強くなる可能性が高いので、より慎重な治療が必要になります。
ぜんそくと診断されていない方の場合は、咳が長引いたり、ゼーゼーいったり、呼吸がしずらいなどの症状があれば、ぜんそくかもしれませんので一度病院に行かれるのがよいでしょう。すでに喘息と診断されている方で、慢性的に症状がある方は、定期的に病院に行って治療を継続する必要があります。症状が良くなった思っても、日々の吸入薬による治療をおこなっていないと、また症状が出て、時に大きな発作が起きることがあるからです。

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(1)ぜんそくの症状とは、どのようなものなのでしょうか。
(2)発症するのは子供が多いイメージですが、大人でも発症するのでしょうか。
(3)ぜんそくは現代人に増えている疾患と言われますが、その要因は何でしょうか。
(4)症状を「コントロール」するとは具体的にどのようなことなのでしょうか。
(5)ぜんそくの検査、診断はどのように行われるのでしょうか。また、どのような症状があった場合、病院に行くのが良いのでしょうか。
(6)ぜんそくの治療のゴールと言うのはどのようなものになるのでしょうか。

2018年7月31日
医療法人上川路クリニック 院長 上川路信博
呼吸器内科・アレルギー科・内科
福岡市城南区茶山1-1-12

症状を「コントロール」するとは具体的にどのようなことなのでしょうか。

ANA国内線ラウンジ誌「INOVATIVE VOICE」のインタビューでの4番目の質問です。

ぜんそくの薬を服用したり、原因抗原を避けたり、タバコを避けたり、風邪・過労・ストレスなどの増悪要因を避けたりすることでぜんそく症状がでないようにすることを、ぜんそくをコントロールするといいます。ぜんそくがでないように予防する薬をコントローラーと呼びますが、近年、有効性・安全性ともに高い薬剤が複数開発されました。その結果、大部分の患者さんは、コントローラーを毎日服用することや環境を調整することでぜんそくをコントロールすることができます。
コントローラーとして最も重要な薬剤はステロイドの吸入薬です。体内の空気の通り道である気道にアレルギー性の炎症が起きると、気道内部の粘膜は敏感になります。一度敏感になってしまった粘膜は、ホコリやタバコ、ストレスなどのわずかな刺激にも反応するようになり、ぜんそく症状の原因となります。ステロイドには強力な抗炎症作用があり、気道の炎症を抑えることで喘息症状を改善します。しかも、吸入という形で肺に薬剤が直接届くため、ステロイドによる全身的な副作用がほとんどありません。

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(1)ぜんそくの症状とは、どのようなものなのでしょうか。
(2)発症するのは子供が多いイメージですが、大人でも発症するのでしょうか。
(3)ぜんそくは現代人に増えている疾患と言われますが、その要因は何でしょうか。
(4)症状を「コントロール」するとは具体的にどのようなことなのでしょうか。
(5)ぜんそくの検査、診断はどのように行われるのでしょうか。また、どのような症状があった場合、病院に行くのが良いのでしょうか。
(6)ぜんそくの治療のゴールと言うのはどのようなものになるのでしょうか。

医療法人上川路クリニック 院長 上川路信博
呼吸器内科・アレルギー科・内科
福岡市城南区茶山1-1-12

ぜんそくは現代人に増えている疾患と言われますが、その要因は何でしょうか。

ANA国内線ラウンジ誌「INOVATIVE VOICE」のインタビューでの3番目の質問です。

ぜんそくの有症率は、1960年代が1%程度であったものが2000年はじめまでに小児で10%以上、成人で6-10%と報告されていますから、確かに現代人に増えています。
ぜんそくは、複数の遺伝要因と複数の環境要因の相互作用で発症する多因子疾患と考えられています。遺伝要因は変化しませんから、私たちを取り巻く環境が、この半世紀の間にぜんそくが発症しやすい方向に変化したのだと思います。
環境の影響に関する研究では、胎児期から生まれて早い時期の環境の影響が大きいと言われています。中でも、大気汚染、食べ物、アレルゲン、微生物、抗生物質の使用などがぜんそく発症と関連していると言われています。
大気汚染に関しては、喫煙の影響が大きいと言われています。親が喫煙した場合に子供のぜんそく発症のリスクが増えますし、妊娠中の母さんがたばこを吸うと、生まれてきた子供がぜんそくになる率が高いと言われています。20代、30代の女性の喫煙率は少し前まで増加していましたから関連があるかもしれません。ぜんそくの原因アレルゲンの中で最も主要なものはチリダニです。チリダニの量が多い環境の方がぜんそくが発症しやすいことが知られています。現在の密閉性の高い家屋でチリダニの量が増えたのかもしれません。清潔できれいな環境で育った方がぜんそくの発症率が高いと言われています。衛生仮説と呼ばれています。また、妊娠中ないしは、生後1年以内に抗生物質を投与された子の方がぜんそくを発症する率が高いという研究もあります。衛生的な生活や抗生物質のおかげで乳幼児の感染症による死亡は激減しましたが、その一方、ぜんそくが増えた要因になっているのかもしれません。

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(1)ぜんそくの症状とは、どのようなものなのでしょうか。
(2)発症するのは子供が多いイメージですが、大人でも発症するのでしょうか。
(3)ぜんそくは現代人に増えている疾患と言われますが、その要因は何でしょうか。
(4)症状を「コントロール」するとは具体的にどのようなことなのでしょうか。
(5)ぜんそくの検査、診断はどのように行われるのでしょうか。また、どのような症状があった場合、病院に行くのが良いのでしょうか。
(6)ぜんそくの治療のゴールと言うのはどのようなものになるのでしょうか。

医療法人上川路クリニック 院長 上川路信博
呼吸器内科・アレルギー科・内科
福岡市城南区茶山1-1-12

発症するのは子供が多いイメージですが、大人でも発症するのでしょうか。

ANA国内線ラウンジ誌「INOVATIVE VOICE」のインタビューでの2番目の質問です。

ぜんそくは、小児期、特に乳児期に発症のピークがあり、その後は全ての年齢層で少しづつ発症します。成人発症の患者さんに限れば、比較的中高年に発症する方が多いと言われています。私は主に大人の患者さんを診ていますが、ざっくり言うと、成人の患者さんの半分が小児期発症で、残り半分が成人してからの発症というイメージです。70歳や80歳でぜんそくを発症される方もおられます。

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(1)ぜんそくの症状とは、どのようなものなのでしょうか。
(2)発症するのは子供が多いイメージですが、大人でも発症するのでしょうか。
(3)ぜんそくは現代人に増えている疾患と言われますが、その要因は何でしょうか。
(4)症状を「コントロール」するとは具体的にどのようなことなのでしょうか。
(5)ぜんそくの検査、診断はどのように行われるのでしょうか。また、どのような症状があった場合、病院に行くのが良いのでしょうか。
(6)ぜんそくの治療のゴールと言うのはどのようなものになるのでしょうか。

医療法人上川路クリニック 院長 上川路信博
呼吸器内科・アレルギー科・内科
福岡市城南区茶山1-1-12

ぜんそくの症状とは、どのようなものなのでしょうか。

ANA国内線ラウンジ誌「INOVATIVE VOICE」のインタビューでの最初の質問です。

ぜんそくの症状は、発作性の呼吸困難、喘鳴、胸苦しさ、咳などです。症状の変動が大きいことと、また、長い期間の中で繰り返しこれらの症状がでることが特徴です。
日にちの単位で見ると夜中から明け方にかけて症状がでることが多く、昼間は大丈夫だけれど夜中明け方に咳をしたりぜいぜいと呼吸が苦しくなって起き上がってしまうことがあります。年単位で見ると季節の変わり目、すなわち秋と春に症状が出やすい傾向があります。また、風邪・過労・ストレスをきっかけにぜんそくがでることが多いのも特徴です。
なお、ぜんそくの症状の起きる頻度は人によって異なり、数年に1回の人から、週に何回も起きる人まで様々です。

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(2)発症するのは子供が多いイメージですが、大人でも発症するのでしょうか。
(3)ぜんそくは現代人に増えている疾患と言われますが、その要因は何でしょうか。
(4)症状を「コントロール」するとは具体的にどのようなことなのでしょうか。
(5)ぜんそくの検査、診断はどのように行われるのでしょうか。また、どのような症状があった場合、病院に行くのが良いのでしょうか。
(6)ぜんそくの治療のゴールと言うのはどのようなものになるのでしょうか。

医療法人上川路クリニック 院長 上川路信博
呼吸器内科・アレルギー科・内科
福岡市城南区茶山1-1-12

気管支喘息 —- 咳で目が覚める方へ

☆咳や息苦しさで目が覚めるのは、喘息のはじまりかもしれません。
気管支喘息は、咳、喘鳴(ゼーゼー・ヒューヒュー)や呼吸困難などの症状が発作性に起きる病気です。調子の良い時は症状がありませんが、風邪などをきっかけに発作が起きます。最初は、咳ではじまり重症化すると日常的に発作がでるようになり治りにくくなります。発作は、しばしば夜中から明け方にかけておき、昼間は症状がない場合もありますが、ほうっておくと、大きな発作を起こし命にかかわることもあります。

☆喘息では気管支が狭くなり息がしにくくなります。
喘息発作は、気管支が腫れたり収縮したりして狭くなることで空気が通りにくくなることで起きます。ですから、喘息の検査には、気管支が狭くなっていることを反映する肺機能検査、気管支の炎症を反映する痰の検査や、アレルギー検査があります。また、咳・喘鳴・呼吸困難などの症状は喘息以外の病気でも起きますので、胸のレントゲン写真や、一般血液検査で他の病気でないことを確認する必要もあります。

☆吸入ステロイドは、副作用の少ない喘息の特効薬です。
気管支が狭くなる原因は、慢性炎症であると考えられています。理論的には、炎症の原因となるダニなどのアレルゲンを除去すれば喘息が起きなくなるはずです。実際、小児ではある程度の効果がありますが、成人ではほとんど効果がありません。これは、アレルゲンの除去は難しい上に、成人喘息にはアレルギー以外の要因もあるからだと考えられています。ですからステロイド呼ばれる炎症を抑える効果の高い薬が使われます。この薬は、副腎皮質ホルモンと呼ばれるホルモンの仲間で、内服や注射で長期に使うと大きな副作用を起こします。しかしながら、吸入で使うと全身にはほとんど吸収されないので、軽い副作用しかありません。副作用が少なく効果が高いので、喘息治療の中心的な役割を果たしています。発作の場合、気管支周囲の筋肉が収縮することで気管支が狭くなり急に呼吸が苦しくなります。すぐ効く薬として、気管支周囲の筋肉の緊張をとる気管支拡張剤があり、吸入ステロイドと併せて使用するのが標準的な治療です。

☆喘息はほうっておくと難治化することがあります。
患者さんの中には、副作用や薬がくせになると心配されて、薬を使うことをためらう方もおられます。しかしながら、喘息もまた、くせになるということを知っておくべきでしょう。発作を放置すると、気管支周囲の筋肉が太くなり、腫れていた気管支が厚いまま固まり元に戻らなくなります。そうすると、普段から息切れするようになり、また、ちょっとしたことで発作が起きるようになって難治化します。早めに治療することが、喘息の重症化を予防し結局は薬を使う量も少なくて済むことになります。ですから、繰り返す咳、喘鳴、呼吸困難などの症状に心当たりのある方は是非ご相談ください。